本記事はVijay Boyapati氏著「The Bullish Case for Bitcoin (part 3 of 4)」(2018年2月28日公開)を翻訳、一部加筆修正したものです。

ビットコイン、強気にならずにはいられない理由 第3部(全4部)

貨幣の進化

Teruko Neriki

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貨幣には価値貯蔵手段、交換手段、価値尺度という3つの機能がある。にも関わらず、現代経済学は貨幣の交換手段機能ばかり強調する傾向がある。20世紀、国家は貨幣発行権を独占すると、価値貯蔵手段機能を継続的に弱めると同時に、貨幣の主要機能は交換手段であるという誤った考えを広めた。ビットコイン批判の定番に、価格変動が激しすぎて安定的交換手段にはなり得ないというものがある。しかし、これは本末転倒だ。財が貨幣に進化する過程は段階的で、貨幣化の最初の段階は常に価値貯蔵手段としての普及である。財は価値貯蔵手段として広く普及した後、初めて交換手段機能を担うようになる。限界効用理論の確立に貢献した経済学者Stanley Jevonsは金が貨幣に進化した過程を以下のように述べている。

歴史的に言えば、金はまず宝飾品としての価値を認められ、次に価値貯蔵手段、続いて交換手段、最後に価値尺度と順に機能を拡張していったようだ。

財の貨幣化プロセスは以下4段階から成る。

1. コレクションアイテム:貨幣化の第1段階では、財の特性が貨幣需要を喚起する。ここで言う特性とは、例えば、美しい、珍しいなど人々の興味、収集意欲を掻き立てるものを指す。貝殻もビーズも金も貨幣として機能する以前はコレクションアイテムであった。

2. 価値貯蔵手段:財の特性に対する需要が一巡すると貨幣化の第2段階に移行し、財は価値を長期にわたり保持、貯蔵するための媒体として利用されるようになる。財が価値貯蔵媒体に適しているとの認識が社会に広がるにつれ、価値貯蔵目的で財を求める人が増え、財の購買力は高まる。財が価値貯蔵手段として普及し需要が落ち着くと、財の購買力も安定する。

3. 交換手段:財の購買力が上昇している間は、財を支払いに使ってしまうと将来増大が期待できる購買力を享受する機会を失う。すなわち、機会費用が発生する。財の購買力が安定すると機会費用も低水準で安定するため、交換手段としての財の利用が促される。ビットコイン誕生当初、この機会費用を認識する者はほとんどいなかった。2010年、ソフトウェア開発者Laszlo Hanyeczはピザ2枚(3,000円相当)を1万ビットコインで購入した。本記事執筆時点で1万ビットコインは94億円に相当する。彼が支払った機会費用は莫大だ。

4. 価値尺度:財が交換手段として広く通用するようになると、貨幣化プロセスの最終段階に入る。ここでは、商品やサービスの価格が財を基準に、すなわち、財との交換比率で表示されるようになる。今日、ビットコインで購入可能な商品やサービスは増えている。しかし、これはビットコインが価値尺度となったことを意味するわけではない。例えば、コーヒーをビットコインで購入する場合のビットコイン価格とは、日本円で表示されたコーヒー価格を支払い時の交換レートでビットコインに換算した金額である。つまり、ビットコインで表示される価格は固定ではなく、ビットコインが日本円に対して下がれば、ビットコイン建てのコーヒーの価格は上がる。ビットコインと法定通貨の交換レートに関わらず、商品やサービスの提供者がビットコインでの支払いを喜んで受け取るようになって初めてビットコインは価値尺度になり得る。

貨幣3機能の一部しか果たさない財は「部分的に貨幣化」された財とみなすことができる。現在の金はこれに該当する。価値貯蔵手段ではあるものの、交換手段と価値尺度の機能は政府によって無効にされた。また、ある財が価値貯蔵手段として利用され、別の財が交換手段として通用することも、アルゼンチンやジンバブエなど経済機能不全に陥った国ではよくある。Nathaniel Popperは著書「デジタル・ゴールド」に以下のように記している。

米国では、ドルは常に貨幣の3つの機能、すなわち、交換手段、商品価値を測る尺度、価値貯蔵できる資産を提供する。しかし、アルゼンチンでは、ペソは交換手段として日常の買い物で使われるものの、価値貯蔵手段として使う者は皆無である。(急速に減価する)ペソでの預貯金はお金をドブに捨てるようなものだからだ。人々は預貯金に回すペソを価値保持に優れた米国ドルに交換する。また、ペソは変動が激しいため、人々は商品価格をドルで記憶する。ドルはペソよりも信頼性の高い価値尺度なのである。

現在、ビットコインは貨幣化プロセス第1段階のコレクションアイテムから第2段階の価値貯蔵手段への進化途上にある。ビットコインが価値貯蔵手段として普及し、交換手段として機能するようになるのはまだ数年先の話だ。しかも、その過程には大きなリスクと不確実性が伴う。金は価値貯蔵手段から交換手段に進化するまでに数世紀を要した。今生きている人の中で財の貨幣化をリアルタイムで見た者はいない。ビットコインの貨幣化プロセスに立ち会えるということは非常に貴重な体験なのである。

経路依存

財は貨幣となる過程で購買力を急激に増す。ビットコイン価格が暴騰、すなわち、ビットコインの購買力が急上昇した際、多くの人が「バブル」という言葉を使ってビットコインは過剰評価されていると批判した。これは実に的を得ている。過去の貨幣財はみな、財の利用価値(財を保有または消費することで得られる効用)では到底正当化できない購買力の急上昇を経験している。しかも、貨幣財にはそもそも利用価値がないものも多い。貨幣財の利用価値と購買力のギャップは「貨幣プレミアム」と見なすことができる。貨幣プレミアムは、財が上記貨幣化プロセスの段階を経るごとに大きくなる。ただ、貨幣プレミアムの増え方は一律ではないため、事前に予測することはできない。貨幣化途上にある財Xが競合財Yに貨幣適性で劣ることが判明すれば、財Xの貨幣プレミアムが縮小または消失することもある。19世紀、世界中で金が貨幣に選択され、銀が廃貨となった際、銀は貨幣プレミアムの大半を失った。

銀、金、ビットコインの総需要に占める産業需要(グレー)と貨幣プレミアム(黄)との割合 (銀、金の割合は時期、マクロ環境によって変化)

貨幣財間競争や政府介入などの外的要因がない場合でも、貨幣化途上にある財の将来の貨幣プレミアムを予測することは不可能だ。経済学者Larry Whiteは以下のように述べている。

バブルという表現の問題点は、どんな価格動向にも当てはまることだ。それ故に、特定の価格動向を解明する上では全く役に立たない。

貨幣化プロセスはゲーム理論的である。市場参加者は他の参加者の選好から貨幣財の総需要を見積もり、それを基に将来の貨幣プレミアムを予測しようとする。貨幣プレミアムは財の利用価値とは無関係なため、市場参加者は貨幣財が割安か割高か、買いか売りかの判断材料として過去の価格を参照する傾向がある。このように現在の需要を過去の価格に関連づけることを「経路依存」と呼ぶ。そして、この経路依存が貨幣財の価格動向を理解する上で混乱の元凶となっている。

貨幣財は普及に伴って価格が上昇する。すると、市場参加者の「割安」「割高」の判断基準に変化が生じる。同様に、貨幣財価格が暴落すると、市場参加者は過去の価格が「非合理的」または過剰評価だったと見方を改める。ウォール街の著名ファンドマネージャーJosh Brownは貨幣の経路依存を以下のように表現する。

私が(ビットコインを)2300ドルで購入すると、直後に価格は2倍に跳ね上がった。すると、私は価格が上がってしまったために「買い増すことができない」と考えるようになった。こう考える根拠としては、前回購入した際の価格がたまたま2300ドルだったという以外に何もないにも関わらずだ。そして、先週、中国政府が取引所規制に乗り出すと、価格は下落に転じた。すると、私は「いいぞ、大暴落すればいい。そうすれば買い増せる。」と考えるようになった。

上記から分かるように、貨幣財に対する「割安」「割高」という判断は本質的に無意味である。貨幣財の価格とは、財の利用価値や財が生むキャッシュフローの反映ではなく、貨幣の3つの機能の普及度合いを測る尺度なのだ。貨幣財価格の経路依存という性質をさらに複雑にするのが市場参加者の特異性である。貨幣財市場の参加者は客観的立場で冷静に将来の貨幣プレミアムを予測して財を売買する投資家であると同時に、貨幣財の熱心な支持者かつ伝道師でもある。貨幣プレミアムには正解がない。そのため、利用需要やキャッシュフローで価格が決まる一般的な財と異なり、貨幣財では財の優位性を周囲の人々に説く普及活動の価格押し上げ効果が高い。インターネット上のフォーラムやSNSには、まるで宗教の布教活動のようにビットコインを語る伝道師が大勢いる。彼らはビットコインの利点とビットコイン投資で得られる経済的リターンを熱心に説明する。こうしたビットコイン市場の特徴をLeigh Drogenは以下のように述べている

あなたはこれが宗教であると気づくだろう。宗教とは、私たちが合意したストーリー、相互に語り合うストーリーである。(ビットコインに適用すべきは)宗教の普及曲線だ。ほぼ完全に一致する。入信した者はみな即座に知人への布教活動を始める。新たに入信した知人もまたすぐに布教活動を開始する。

宗教を例えに使うと、ビットコインは不合理な信仰という印象を与えるかもしれない。しかし、自ら保有する優れた貨幣財の普及を促す活動は極めて合理的と言える。貨幣はあらゆる取引と貯蓄の基礎になる。優れた貨幣が普及する社会は富の創造と増殖という点で、そうでない社会より圧倒的優位に立てる。

貨幣化プロセスの形状

財が貨幣になるまでの過程は画一的ではないが、短いながらもビットコインがこれまで辿ってきた経路には興味深いパターンが見られる。ビットコイン価格はフラクタル(自己相似性)図形を繰り返し描くように推移してきた。しかも、それは反復の度に拡大する。何より興味深いのは、ビットコイン価格が描くフラクタル図形がガートナーのハイプサイクルに一致していることだ。

ガートナーのハイプサイクル

Michael Caseyは「ビットコインの普及と価格に関する推論」において、革新的技術は(イノベーター理論の)普及S字曲線をガートナーのハイプサイクルを反復しながら辿り普及していくと主張する。

米国家庭における新技術の普及率 — 縦軸: 普及率; 横軸: 時間

ガートナーのハイプサイクルは新技術に対する熱狂から始まる。「黎明期」において「リーチ可能な」層から市場参入者が相次ぐことで価格が急騰する。黎明期の投資家の特徴は新技術の革新性を強く確信していることだ。こうした技術の将来性に賭ける投資家の新規参入が徐々に減り、目先の利益追求を目的とする投機筋が市場を支配するようになると「『過度な期待』のピーク期」に達する。

ピーク期を過ぎると価格は暴落、ハイプサイクルは幻滅期に移行する。市場の投機熱は冷め、投資家は失望と技術実用化への疑念から市場を去る。そして、技術の将来性を確信する黎明期初期の投資家しか市場にいなくなると価格は底を打つ。しばらくすると、価格下落に耐えられるリスク許容度の高い投資家や技術の重要性を評価する投資家が新規参入してきて価格は安定する。

Caseyが「安定して退屈な安値圏」と称するフェーズに入るが、これは長期化することも多い。この時期、一般投資家は関心を失うが、技術の可能性を信じる一部エンジニアは黙々と技術改良に励み、技術は着実に進化する。こうした努力が実を結ぶと、ハイプサイクルは「啓発期」に移行する。それまで様子見姿勢だった投資家が技術開発が継続していること、技術実用化が見えてきて以前より投資リスクが低下していることを認識する。技術の採用事例が増えて普及が進むと、ハイプサイクルの最終フェーズ「生産性の安定期」に入る。

ハイプサイクルに参加する投資家でさえ、将来の価格動向を正確に予測できる者はいない。しかし、ピーク期の価格は往々にしてハイプサイクル黎明期の投資家が馬鹿げていると感じざるを得ない水準まで高騰する。幻滅期に入ると、この常軌を逸した価格暴騰が価格暴落を引き起こしたとしてメディアから非難される。確かに、実態から乖離した価格も一因かもしれないが、価格暴落の根本的原因は黎明期からピーク期においてリーチ可能な層から市場に新規参入する投資家の流れが止まることである。

金は1970年代後半から2000年代にかけて、ガートナーのハイプサイクルを忠実に辿った。ハイプサイクルは財の貨幣化に対する社会の自然な反応を可視化したものと言えるかもしれない。

1968年〜2011年にかけての金価格推移(ドル建て)

ビットコインハイプサイクルの参加者

最初のビットコイン取引所が開設された2010年以降、ビットコイン市場はガートナーのハイプサイクルを4度経験した。以下、過去のハイプサイクルの価格帯と主な参加者である。

0円〜100円(2009年〜2011年3月): 最初のハイプサイクルの参加者はサトシ・ナカモトの発明の重要性を理解するのに必要な素養を備え、ビットコインプロトコルに技術的欠陥がないことを自ら検証できた暗号学者、コンピュータサイエンティスト、サイファーパンクが中心であった。

100円〜3,000円(2011年3月〜2011年7月): 2度目のハイプサイクルの主役は新技術のアーリーアダプターと国家に依存しない貨幣の可能性に惹かれた投資家であった。Roger Verをはじめとするリバタリアンはビットコインの普及が現体制転覆につながるかもしれないという可能性に興奮した。シリコンバレーに広い人脈を持つシリアル起業家Wences Casaresは有力技術者、投資家にビットコインを紹介した功労者として知られている。

2,500円〜110,000円(2013年4月〜2013年12月): 当時はまだビットコイン購入ハードルが非常に高く、流動性リスクの大きい取引所で恐ろしく複雑な手順を踏む必要があった。3度目のハイプサイクルで参入してきたのは、こうしたリスクと手間を厭わない逞しい一般投資家と機関投資家であった。この時期、市場に流動性を提供していたのは日本に拠点があった取引所マウントゴックスだった。しかし、マウントゴックス運営者Mark Karpelesは無能な上に不正行為に手を染め、後に取引所破綻の責任を問われて刑に服することになる。

上記3回のハイプサイクルでは、ビットコインの流動性上昇と購入ハードル低下が価格を押し上げてきた。最初のハイプサイクルでは取引所すらなく、ビットコインを入手するには、自らマイニングするか、ビットコイン保有者から直接買うしかなかった。2度目のハイプサイクルでは取引所はあったものの、まだ使い勝手が悪く、技術に通じた一部の投資家を除き、ビットコイン購入と保管の難易度は極めて高かった。これは3度目のハイプサイクルでもほとんど改善されず、投資家はまずマウントゴックスへの国際送金という難関を突破しなければならなかった。マウントゴックスへの送金に応じない銀行も多かったため、別の仲介業者の利用を余儀なくされたが、それらは往々にして無能、詐欺師、またはその両方であった。マウントゴックスへの送金に成功した人でさえ、その多くは取引所がハッキングを受け2014年2月に突然閉鎖した際に資産を失うことになった。

マウントゴックス破綻後、2年にわたり市場は停滞した。その間、GDAXやCumberlandといった規制要件を満たした合法的な取引所やOTCデスクが整備され、市場流動性は大幅に改善された。2016年に4度目のハイプサイクルが始まる頃には、一般投資家でも比較的容易にビットコインを購入し安全に保管できる環境が整った。

110,000円〜1,960,000円(2016年〜?): 本記事執筆時点で、ビットコイン市場は4度目のハイプサイクルにある。現サイクルの主役はMichael Caseyが「アーリー・マジョリティ(初期多数採用者)」と呼ぶ一般投資家と機関投資家である。

イノベーション普及S字曲線 — 縦軸: 普及率; 横軸: 時間

流動性が高まったことで、機関投資家は規制当局が監督する先物市場を介してビットコイン市場に参加できるようになった。先物市場の整備と成功はビットコインETF承認に向けた布石となる。ビットコインETFの誕生は「レイト・マジョリティ(後期多数採用者)」と「ラガード(採用遅滞者)」の参入を促す起爆剤となるだろう。

現ハイプサイクルの価格帯を正確に予測することはできないが、高値は200万円〜500万円というのが現実的だろう。これを大きく上回ることがあれば、ビットコインの時価総額は金に迫る(本記事執筆時点では、ビットコイン価格が約3,800万円になると時価総額で金に並ぶ)。ただ、金の時価総額は中央銀行の需要に支えられているため、中央銀行または国家が現ハイプサイクルでビットコイン市場に参入することは考えにくい。

国家の参入

ビットコインの最終ハイプサイクルは、ビットコインを外貨準備金として入手する国家の出現で幕を開ける。ビットコインの時価総額は現時点ではまだ小さすぎて、準備金としての採用を真剣に検討する国はほとんどない。民間部門からの投資が今後も継続し、時価総額が100兆円規模に近づけば、国家が参入するに足る流動性が確保できる。どこかの国がビットコインの準備金採用を公表すれば、追随する国が相次ぐだろう。将来、ビットコインが国際準備通貨になった場合、他国に先駆けてビットコインを購入した国は莫大な利益を得る。残念ながら、最初にビットコイン採用に踏み切るのは北朝鮮のような独裁国だろう。欧米諸国は独裁国がビットコインのおかげで金融財政状況を改善することへの不快感と、民主主義ゆえに強権的措置が取り難いことから、ビットコイン採用に躊躇し、ラガード(採用遅滞者)となることが予想される。

現在、ビットコイン規制に関しては、中国とロシアが最も厳しく敵対的で、米国は最も寛容な国の一つである。これは実に皮肉だ。米国にとってビットコインとは、ドルから国際基軸通貨の座を奪うかもしれない地政学的脅威である。1960年代、フランス大統領シャルル・ド・ゴールは1944年のブレトンウッズ協定に基づく国際金融秩序が米国に「過度な特権」を与えていることを批判した。今のところ、ロシアと中国はビットコインが自国に及ぼす悪影響を抑えることに必死で、ビットコインを準備通貨に採用する地政学的メリットを認識していない。米国の過度な特権の是正策として、1960年代に金本位制復活を提唱したド・ゴールのように、中国とロシアはどの国にも属さない中立的な価値貯蔵手段で準備金を保有するメリットに間もなく気づくだろう。これを実践に移す上で、ビットコインのマイニング施設が集中する中国は既に有利な立場にある。

米国はイノベーションの国であることに誇りを持っている。シリコンバレーは米国経済の重要資産であり、ビットコイン規制方針に関する当局の議論にも大きな影響力を持つ。他方で、中央銀行である連邦準備制度理事会と金融業界はビットコインが国際準備通貨ドルを代替する脅威、すなわち、自らの存在意義が脅かされることに不安を感じ始めている。連邦準備制度理事会の広報担当とも言えるウォールストリートジャーナルも、ビットコインの脅威に言及している。

ビットコインが崩壊せず、このまま存続するかもしれないという可能性は連邦準備制度と規制当局にとっては深刻な脅威である。ビットコインに対する投機熱がドル代替貨幣としての普及の予兆であるとしたら、連邦準備制度理事会が独占的貨幣発行特権を失う脅威に直面するのは時間の問題だ。

ビットコインの独立性を維持し、政府介入を最小限に抑えようとするシリコンバレーの技術者と起業家。既存金融制度の崩壊と貨幣発行独占権の喪失を回避するために全力でビットコイン規制を訴える金融機関と中央銀行。今後数年にわたり、シリコンバレーと金融業界はビットコイン規制をめぐり激しい論争を繰り広げることが予想される。

交換手段への進化

貨幣財はその価値が社会に広く認知されて初めて一般的受領性を持つ(現代「貨幣」の主要機能である)交換手段になれる。価値が認知されていない財を支払手段として受け取る人はいないので当然だ。貨幣財は価値が認知される過程、すなわち、価値貯蔵手段から交換手段に進化する過程で購買力が大幅に高まる。そのため、この過程にある貨幣財を支払いに使うと、将来増大が期待できる購買力を放棄するという機会費用が生じる。価値貯蔵手段を支払手段として使用する際の機会費用が適切な水準に低下するまで、貨幣財は一般的受領性を持つ交換手段にはなれない。

より厳密に言うと、貨幣財は支払いに使用する際の機会費用と取引費用の合計が、別の支払手段を使用する際の費用を下回るようになって初めて交換手段として機能し得る。

ただし、物々交換社会では、貨幣財が価値貯蔵手段として購買力を伸ばしている最中であっても交換手段として使われることがある。これは物々交換の取引費用が極めて高いからだ。経済が発達するにつれて取引費用は低下するが、取引費用が低い社会でも、ビットコインのように購買力上昇中の貨幣財が交換手段として使用されることがある。非常に稀ではあるが、違法ドラック市場はその一例だ。買い手は法定通貨によるドラッグ購入に付随するリスクを回避するため、ビットコインの潜在的購買力を放棄することを厭わない。

現代法定通貨社会では、ビットコインのような新しい貨幣財が一般的受領性を持つ交換手段へと進化する過程には巨大な制度障壁が立ちはだかる。国家は自国通貨が競合貨幣財に代替されるリスクを排除するため、課税という強力な手段に訴える。国は納税手段を自国通貨に限定することで、通貨に対する一定需要を確保できる。しかし、真の意図は競合貨幣財で行う取引を課税対象とすることで、貨幣財を交換手段として使用するコストを引き上げ、価値貯蔵手段から交換手段への進化を阻むことである。

国家は市場が選んだ貨幣財に不当なハンディを課すことはできるが、交換手段への進化を止めることはできない。法定通貨は国民の信用を失えばハイパーインフレーションを起こし、最終的に無価値の紙切れと化す。ハイパーインフレが起きると、まず金や(国内で入手可能であれば)米国ドルのように流動性の高い財に対する通貨価値が暴落する。こうした財が国内で入手困難な場合、不動産や(貴金属、農作物などの)商品といった実物財の価格が暴騰する。ハイパーインフレの象徴と言えば、空の棚が並ぶスーパーマーケットだろう。国民は急激に減価する通貨を価値保全に優れた別の財に交換しようと手当たり次第に商品を買い漁る。

ハイパーインフレで法定通貨の信用が完全に失われると、通貨を支払手段として受け取る者がいなくなり、社会は物々交換に逆戻りするか、別の貨幣が交換手段機能を果たすようになる。ジンバブエドルが米国ドルに置き換えられたのはこの一例だ。しかし、自国通貨を外貨で代替するには、外貨アクセスが限られていること、流動性確保に不可欠な外国金融機関が国内にないことなど様々な問題があり、実現は容易ではない。

ハイパーインフレを起こした国の居住者にとって、銀行を介さずに手軽に海外送金ができるビットコインは理想的貨幣財である。国が従来の緩和的金融政策を改めず、今後も法定通貨が無価値化への道を突き進むとしたら、世界中の貯蓄の逃避先としてビットコインの人気は一層高まるであろう。法定通貨が放棄され、ビットコインに置き換えられる時、ビットコインは価値貯蔵手段から交換手段に進化する。Daniel Krawiszはこのプロセスを「Hyperbitcoinization(ハイパービットコイン化)」と名付けた。

第4部に続く。

最終部となる第4部では、ビットコインに対するよくある批判を本連載記事で解説した経済学のフレームワークを用いて論破する。また、ビットコインが貨幣化プロセスで直面する重大リスクについても検証する。

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Teruko Neriki

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