本記事はVIJAY BOYAPATI氏著「THE BULLISH CASE FOR BITCOIN (PART 4 OF 4)」(2018年3月1日公開)を翻訳、一部加筆修正したものです。

ビットコイン、強気にならずにはいられない理由 第4部(全4部)

ビットコインに関する誤解とリスク、そして結論

Teruko Neriki

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第1〜3部ではビットコインの貨幣特性を見てきた。最終部となる本記事では、まずビットコインについてのよくある誤解を解いていく。次にビットコインに投資する前に知っておくべきリスクを解説、最後に現時点でのビットコインに関する私の結論を述べる。

ビットコインに関するよくある誤解

ビットコインはバブル

ビットコインに限らず、市場で選ばれた貨幣財には貨幣プレミアム(財の利用価値から導かれる価格と市場価格の差額)がつくのが常だ。ビットコインは「バブル」という批判はこの貨幣プレミアムに由来する。しかしながら、貨幣プレミアムは過去の貨幣財全てに共通するもので、貨幣を貨幣たらしめる特徴でもある。貨幣財は常にバブルにあると言ってもよい。逆説的ではあるが、貨幣財はバブルでもあり、貨幣としての普及初期段階では過小評価されることもある。

価格変動が激しすぎる

ビットコインの価格変動が大きいのはその新しさ故である。誕生から数年間、ビットコインはまるでペニー株のようにWinklevoss兄弟をはじめとする大口投資家の売買で価格を急変動させた。しかし、ビットコインの普及とともに流動性が高まるにつれて価格変動は縮小した。将来、ビットコインが時価総額で金に並ぶ頃には、価格変動も金と同水準に落ち着くであろう。さらに、ビットコインが時価総額で金を凌ぐ頃には、交換手段としての利用にふさわしい安定価格を実現できるだろう。第3部で見たように、ビットコインはガートナーのハイプサイクルを反復しながら貨幣へと進化する。価格変動はハイプサイクルの「ピーク期」および「ピーク期」から「幻滅期」への移行期に最大、「生産性の安定期」に最小となる。ただし、ハイプサイクルを繰り返す毎に市場流動性は高まるため、価格変動は徐々に縮小する。

送金手数料が高すぎる

ビットコインの送金手数料が上がり始めると、手数料が高すぎるのでビットコインネットワークは決済システムにはなれないという批判が出てきた。しかし、送金手数料の上昇は初めから予想されていたことであり、ネットワークの健全性の証とも言える。手数料は送金指示の正当性(送金人が送金額相当のビットコインを保有しているかなど)を検証し、ネットワークを安全に保つマイナーへの対価として支払われる。マイナーは送金手数料の他にもブロック報酬を得る。ブロック報酬とは、マイニングで新規発行されるビットコインのことで、ビットコイン保有者全員がインフレという形で支払うマイナー助成金のようなものだ。

ビットコインは総供給量が2100万と予め決まっているため、インフレとは無縁の理想的価値貯蔵手段として使われるようになった。この供給上限は2100万ビットコイン発行後にブロック報酬がなくなることを意味する。つまり、ネットワークを安全に保つマイナーの収入源は送金手数料だけになる。送金手数料が「安い」とネットワークの安全性と検閲耐性が維持できなくなる。手数料の安さを売りにする「アルトコイン」は無意識のうちに自らの弱みを宣伝しているようなものだ。

ビットコインの手数料が「高い」という批判の背景には、ビットコインの主用途は価値貯蔵手段ではなく交換手段であるべきという思い込みがある。第3部で説明した通り、これは本末転倒だ。ビットコインは価値貯蔵手段として広く普及して初めて交換手段として通用するようになる。それに、ビットコインの交換手段としての利用に伴う機会費用が適性水準に下がる頃には、送金の大半はビットコインネットワークから手数料の安い「セカンドレイヤー」に移行しているだろう。19世紀の金本位制時代、金取引では金そのものではなく、銀行が発行する金の所有証明書である約束手形が売り手から買い手に移転された。金現物の輸送費が非常に高かったためだ。ライトニングネットワークのようなセカンドレイヤーはこの約束手形に相当するものを提供する。しかし、銀行の仲介が必須な約束手形とは異なり、ライトニングネットワーク上での送金に銀行のような第三者機関は介在しない。しかも、送金手数料も極めて安い。ライトニングネットワークはビットコインにとって重要な技術革新である。今後、開発と普及が進むにつれて、その重要性は広く認知されるであろう。

アルトコインとの競争で価格は下がる

ビットコインはオープンソースソフトウェアであるため、誰でも自由にソースコードを複製、改変して類似ネットワークを構築できる。実際、この数年間で膨大な数のビットコインの模倣ネットワークが生まれた。完全複製のライトコイン、複雑な契約を作成、自動執行するための分散コンピュータシステムを目指すイーサリアムも模倣ネットワークである。投資家目線でよくあるビットコインに対する批判に、最新技術を採用した高機能な類似ネットワークが容易に作れるなら、ビットコインは今の価格を維持できないというものがある。

この批判が的外れな理由として「ネットワーク効果」が挙げられる。ビットコインの発明によって、それまで存在しなかった暗号資産という市場が生まれた。当然のことながら、市場を切り開いた最初の暗号資産であるビットコインは、後続の模倣コインとは比較にならないほど大きな市場シェアを持つ。この支配的シェアがネットワーク効果の源泉である。そのため、模倣コインはネットワーク効果を持たない。ネットワーク効果とは、既に多くの人に利用されているものは、そうでない類似品よりも利用価値が大きいことを指す。ネットワーク効果はビットコインの特徴、いや、ビットコインそのものである。ネットワーク効果を持つ技術にとって、それは最重要資産とも言える。

ビットコインのネットワーク効果には、流動性、保有者数、開発者コミュニティ、ブランド認知がある。国家を含む大口投資家は流動性を非常に重視する。流動性が低いと、自らの取引が相場を動かしてしまい、迅速な取引ができないからである。優秀なソフトウェア開発者は最も優秀な開発者が集まるコミュニティに参加する。すると、それが呼水となり、他の優秀な開発者の参入が相次ぐという好循環が生まれ、コミュニティはさらに強化される。ブランド認知は自己強化的性質を持つ。模倣コインは差別化のために常にビットコインに言及しなければならず、結果としてビットコインのブランド認知向上に貢献する。

フォークコインに代替される

上記のように、単にビットコインソフトウェアを複製して新しいネットワークを作る他に、2017年にはソフトウェアだけでなく、(ブロックチェーンとして知られる)過去の取引履歴まで丸ごと複製する「フォーク」が流行った。複製したビットコインブロックチェーンを任意の時点で分岐して新しいネットワークを作るのだ。単にソフトウェアを複製したネットワークはいかにコインを広範に配布するかという問題に直面するが、フォークはこの問題を解決した。

フォークの中でも、ビットコインに最も大きな影響を与えたのが、ビットコインキャッシュとして知られるネットワークが生まれた2017年8月1日のフォークだ。このフォークでは、フォーク前日にビットコインを保有していた人に対して、保有するビットコインと同量のビットコインキャッシュが配布された。ビットコインキャッシュ支持者は数は少ないものの声が大きく、手を替え品を替えビットコインのブランド力を奪おうとした。ネットワークにビットコインキャッシュという名を冠したり、暗号資産市場の新規参入者をターゲットにビットコインキャッシュこそが「本物」のビットコインである訴えるキャンペーンを実施した。しかし、彼らの目論見が失敗に終わったことはビットコインキャッシュの時価総額から明らかだ。ただし、ビットコインブロックチェーンをフォークした競合ネットワークがビットコインを時価総額で凌駕し、代替する可能性はゼロではない。ビットコイン投資をするなら、このリスクを認識しておくべきだ。

これまで、ビットコインとイーサリアムは多くのフォークを経験してきた。この経験から明らかになった重要な事実は優秀な開発者が集まる活発なコミュニティを持つネットワークが時価総額をほぼ総取りすることだ。ビットコインは新しい貨幣であると同時に、保守と改良が不可欠なソフトウェアが支えるコンピュータネットワークでもある。開発者コミュニティが貧弱でスキルの低い開発者しかいないネットワークが発行するトークンに投資することは、マイクロソフト社の優秀な開発者のサポートを受けられない海賊版ウィンドウズを買うようなものだ。2017年のフォークで明らかになったことは、最高水準のスキルと経験を持つ暗号学者とコンピュータサイエンティストはビットコインソフトウェアの保守、改良に使命感を持って取り組んでおり、ビットコインを模倣したアルトコインは眼中にないということだ。

ビットコインに関するリスク

メディアや経済学者によるビットコイン批判の大半は貨幣についての誤った知見に基づく誤解である。しかしながら、ビットコインには重大なリスクがあることも事実だ。ビットコイン投資はこうしたリスクを理解した上で行うべきである。

プロトコル欠陥

ビットコインプロトコルやプロトコルの基礎となる暗号学に欠陥が見つかる可能性はゼロではない。また、量子コンピュータの実用化で演算能力が飛躍的に高まると、暗号が破られてビットコインの安全性が保てなくなる可能性もある。こうした可能性が現実のものになれば、ビットコインの信用失墜は避けられない。サトシ・ナカモトがビザンチン障害を本当に克服したのか優秀な暗号学者でさえ確信が持てなかったビットコイン誕生当初、このリスクは非常に高かったが、深刻な欠陥はすでに改修されている。それでも、プロトコルリスクはビットコインの潜在リスクとして常に意識しておくべきだ。

取引所の閉鎖

これまで、政府によるビットコイン禁止の試みは全て失敗に終わっている。これはビットコインネットワークの分散性のおかげである。しかし、ビットコインと法定通貨を交換する取引所は極めて中央集権的であるため、政府から閉鎖を命じられれば従わざるを得ない。もし取引所が閉鎖された場合、あるいは銀行が取引所との取引を打ち切った場合、ビットコインの貨幣化プロセスは完全に止まらないまでも、深刻な影響を受ける。OTCブローカーや(localbitcoins.comのような)分散型市場も流動性を提供するが、中央集権型取引所に比べれば微々たるものだ。流動性が十分でなければ、価格形成プロセスが阻害される。

取引所は閉鎖リスクを回避するために、規制の緩い国に拠点を移すことができる。バイナンスはもともとは中国で開設されたが、中国政府による業務停止命令を受けて日本に移った(その後、マルタに移動、現在は不明)。ビットコインを過度に警戒する国がある一方、将来インターネットのような重要インフラとなる可能性のあるビットコインを保護することは得策だと考える国もある。取引所を厳しく規制する国は、そうでない国に重要産業となり得る分野で将来大きな遅れをとることになる。

世界中の政府が協力して取引所を一斉閉鎖しない限り、ビットコインの貨幣化プロセスが完全に止まることはない。ビットコインの普及が進むにつれ、ビットコインネットワークの完全停止はインターネットを停止するのと同じくらい難しくなる。しかし、ビットコインネットワークが停止する可能性がゼロではないことは、ビットコイン投資のリスクとして認識しておくべきだ。第3部の国家参入の項で説明したように、政府はどの国にも属さない検閲耐性のあるデジタル貨幣が金融政策に及ぼす脅威にやっと気づいたところである。政府が強硬手段に訴えるのが先か、ビットコインが社会に根づき政府による強硬措置の効果がなくなるのが先か、現時点で答えはない。

代替性の低下

ビットコインブロックチェーンは全世界に公開されており、誰でも自由に過去の取引を閲覧できる。そのため、政府が取引記録を分析し、非合法活動に使用されたビットコインを「汚れた」ビットコインに指定することも考えられる。ビットコインはプロトコルレベルで検閲耐性があるため、ビットコインネットワーク上で汚れたビットコインの送金が拒否されたり差し止められることはない。しかし、もし政府が取引所や店舗に対して汚れたビットコインの受け取りを禁じる場合、汚れたビットコインの価値がそうでないビットコインより大幅に低くなる可能性がある。そうなると、ビットコインは貨幣財にとって不可欠な代替性を失う。

ビットコインの代替性を維持するには、プロトコルレベルでの取引秘匿性の改善が必須だ。モネロやZキャッシュは秘匿性が高く、プライバシーコインとも呼ばれる。ビットコインで同等の秘匿性を実現するには、技術が複雑になり効率が低下するというトレードオフが生じる。貨幣としての使い勝手を損なうことなくプライバシーを強化できるか、現時点ではまだわからない。

結論

ビットコインはコレクションアイテムから価値貯蔵手段への進化途上にある初期貨幣である。国家に依存しない中立な貨幣財であるビットコインは19世紀の金本位制時代の金のような国際貨幣となる可能性を持つ。国際通貨としてビットコインが普及する可能性、これこそが私がビットコインに強気にならずにはいられない理由であり、サトシ・ナカモトのビジョンでもある。サトシは2010年にMike Hearnに宛てたメールで述べている。

国際貿易決済の一部にでも使われることが想像できれば、ビットコインは全世界に2100万しか存在しないのだから、1ビットコインの価値はもっと上がると思うだろう。

天才暗号学者で、サトシが初めて送金したビットコインの受取人でもあるHal Finneyは、ビットコインソフトウェアの最初の実用版のリリース後、同様のことをさらに具体的に語っている。

ビットコインは成功し、世界中で利用される主要決済システムになると思う。そうなったら、ビットコインの時価総額は世界の総資産と並ぶだろう。私が調べたところ、世界総資産は現時点で1〜3京円。ビットコインは2100万しかないのだから、1ビットコインの価値は約10億円になるだろう。

たとえビットコインが貨幣の3機能を果たす完全な国際貨幣にはなれない場合でも、国家に依存しない価値貯蔵手段として金と競合するようになれば、現在価格にはまだ大きな上昇余地がある。地表に現存する金供給量の時価総額(約800兆円)にビットコインが追いつくと、1ビットコインは約3800万円となる。第2部で見たように、優れた価値貯蔵手段の8つの特徴のうち、ビットコインは実績以外の全てで金に勝っている。時間の経過とともにリンディ効果は大きくなるため、実績という金の唯一の優位性は低下する。今後10年でビットコインが金の時価総額に並び、上回るという予測はあながち非合理的ではない。ただし、これは金の時価総額が主に金を価値貯蔵手段として保有する中央銀行の需要で支えられているとの前提だ。ビットコインが金の時価総額を上回るには、ビットコイン市場への国家参入が必須である。欧米の民主主義国家がビットコインを保有するかは分からない。不幸なことだが、最初にビットコイン市場に参入するのは強権国、独裁国になる可能性が高い。

もし国家が参入しなくても、ビットコインに強気にならずにはいられない理由はある。一般投資家と機関投資家が国家に依存しない価値貯蔵手段として使う場合に限っても、現時点でビットコインはまだ普及曲線の初期、いわゆる、「アーリー・マジョリティ(初期多数採用者)」の段階にある。「レイト・マジョリティ(後期多数採用者)」と「ラガード(採用遅滞者)」の参入は数年先の話だ。一般投資家、特に機関投資家の参入が増えれば、ビットコイン価格が1000万円から2000万円になることも当然あり得る。

ビットコインを所有することは、世界中の誰もが参加できる極めて稀な非対称な賭けだ。コールオプションと同じで、投資家のダウンサイドリスクは1倍に限られている一方、潜在的アップサイドは現時点でもまだ100倍以上ある。ビットコインは史上初のグローバルバブルであり、世界中の人々が政府の愚かな経済政策から自己資産を守りたいと強く願うほど、バブルの規模は拡大する。ビットコインは中央銀行の愚策が招いた2008年の世界的金融危機から不死鳥の如く生まれた。

ビットコインの影響は経済金融分野に止まらない。国家に属さない中立な価値貯蔵手段の台頭は地政学にも多大な影響を与える。供給操作ができないインフレとは無縁の国際準備通貨が存在することで、政府は運営資金をインフレに頼ることができなくなり、資金源を税金にシフトせざるを得なくなる。増税は国民の受けの悪い。政府は国民が痛みに耐えられる範囲内での政権運営を強いられ、最終的には規模と機能の縮小を余儀なくされるだろう。さらに、国際貿易決済も1960年代にフランス大統領シャルル・ド・ゴールが主張したように特定国が過度な特権を持たない形態に転換するだろう。

国際貿易は(世界大戦という)世界的不幸が始まる以前のように、特定国の状況に左右されない、誰もが正当性を認める貨幣を基盤とすべきである。

50年後、ビットコインはその基盤になっているだろう。

謝辞 Acknowledgements

Thank you Vijay Boyapati for allowing me to translate and share this brilliant educational material in Japan.

cryptophileHaegwan Kimさん、ドラフトのレビューにご協力いただき誠にありがとうございました。

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Teruko Neriki

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