本記事はVijay Boyapati氏著「The Bullish Case for Bitcoin (part 2 of 4)」(2018年2月27日公開)を翻訳、一部加筆修正したものです。

ビットコイン、強気にならずにはいられない理由 第2部(全4部)

優れた価値貯蔵手段の要件

Teruko Neriki

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価値貯蔵手段の王座を賭けた競争が始まった。この競争過程で優れた価値貯蔵手段、すなわち、時間の経過とともに需要が拡大し価値が上昇する財の特徴が明らかになった。これまで価値貯蔵手段として使われた多様な財の中で、競争を勝ち抜いて需要を大きく伸ばした財は以下の特徴を持つ。

  • 耐久性:劣化、腐敗しにくく、簡単には消滅しない。つまり、お米は価値貯蔵手段には不向きである。
  • 携帯性:保管、移動が容易で紛失、盗難リスクが低く、遠隔地との取引決済手段に適する。例えば、金のネックレスは牛よりも優れている。
  • 代替性:同じ財であれば個体間の質的区別はなく、常に同量交換が保証される。これが保証されない財には、欲求の一致の欠如という問題が残る。すなわち、形状と品質にばらつきがあるダイヤモンドより金の方が優れている。
  • 検証性:本物か偽物かを容易に判定できる。過去に繰り返し本物であることが証明された財は支払い手段として受取人からの信用度が高いため、取引を円滑化、迅速化する。
  • 可分性:簡単に小単位に分割できる。社会が未発達で取引頻度が少ないうちは、この重要性は低いが、社会が成熟し取引が活発化すると、必要時に必要量を入手できるようになり、取引が小口化するために重要性が高まる。
  • 希少性:Nick Szabo曰く、貨幣財は「偽造できない価値」を持つ必要がある。すなわち、数量が限定的で大量生産が困難でなければならない。価値貯蔵手段にとって最も重要な特徴はおそらくこれだ。希少なものを保有したいという人間の本能を刺激するためである。価値貯蔵手段の価値源泉は希少性とも言える。
  • 実績:財の価値が社会に認知されている期間が長くなるほど、価値貯蔵手段としての訴求力は増す。長期にわたり価値貯蔵手段として機能した財を代替するには、新しい財は従来財に対して上記性質で大きな優位性を示すか、暴力などの強制的手段に訴える必要がある。
  • 検閲耐性:社会のデジタル化が進み、政府や企業が市民生活を広範囲にわたって監視できるようになった今、この重要性は急速に高まっている。検閲耐性のある財は政府や企業などの第三者機関が所有、使用を禁じるのが難しい。資本規制を採用する国、貿易が厳しく管理統制されている国の居住者にとって、検閲耐性のある財は理想的な価値貯蔵手段である。

下表は上記特徴に対するビットコイン、金、(ドルなどの)法定通貨の評価を示す。

上から耐久性、携帯性、代替性、検証性、可分性、希少性、実績、検閲耐性

耐久性

三つの中で最も耐久性が高いのは金である。古代エジプトのファラオの黄金をはじめ、これまで採掘、鋳造された金はその大半が現存し、今後も消滅しないだろう。ローマ時代に鋳造された金貨は現在も価値をほとんど失っていない。有形の金と異なり、法定通貨とビットコインは本質的には無形の電子データだが、(紙幣、硬貨などの)物理形態をとることもある。ボロボロになった紙幣は新紙幣と交換可能なことから、法定通貨とビットコインの耐久性は財の価値を投影した物体そのものの耐久性ではなく、それを発行する組織の耐久性で評価すべきだ。法定通貨の場合、発行体は政府である。政府がめまぐるしく変わる度、通貨は一新される。ドイツワイマール共和国のパピエルマルク、レンテンマルク、ライヒスマルクは発行政府の消滅と同時に無価値の紙切れと化した。歴史を教訓にするなら、法定通貨に長期的耐久性があると考えるのは愚かだ。米国ドルと英国ポンドは例外的と言える。ビットコインは発行体を持たないため、ビットコインネットワークが稼働する限り価値を持つと考えられる。しかし、ビットコインの歴史はまだ浅く、耐久性について結論を出すのは時期尚早だろう。しかし、度重なる国家やハッカーの攻撃にもかかわらず、ビットコインネットワークが一度も停止することなく稼働し続けている事実はビットコインの反脆弱性(不利な状況を逆手に取って利する能力)の証と言ってもいいだろう。

携帯性

これまで価値貯蔵手段として機能した財の中で、ビットコインは携帯性に最も秀でている。ビットコインの所有権を証明する秘密鍵は小さなUSBメモリに保存できるため、億単位の大金も簡単に持ち運べる。さらに、地球の裏側にいる人に宛てた多額の送金も10分程度で完了する。本来、電子データである法定通貨も可動性は高いが、政府規制のせいで大口送金は通常数日を要し、資本規制が課されている国では送金すらできない。現金であれば資本規制回避も可能だが、現金の保管リスクと移送コストは高い。金は有形で、しかも非常に高密度なことから、携帯性は著しく劣る。金地金の大半が一度も動かされることなく金庫に保管されたままなのも当然だ。一般的に金地金取引では、金地金そのものではなく、その所有権が売り手から買い手に移行するだけだ。金地金の輸送はリスクとコストが高く、時間もかかるためである。

代替性

金は代替性が非常に高い。金含有量20グラムの宝飾品や金貨は溶解してしまえば、他の20グラムの金と全く区別がつかない。金が常に重量単位で取引される所以だ。法定通貨の場合、代替性は発行体に依存する。例えば、インドでは課税回避が横行する闇市場を撲滅するため、政府が500ルピー紙幣と1000ルピー紙幣の廃貨を突然宣言した。この結果、両紙幣を小額紙幣に交換する人が殺到、500ルピー紙幣と1000ルピー紙幣が額面よりも安く取引される事態となり、小額紙幣との代替性が損なわれた。また、通常、どの紙幣も同じように支払いに使えるが、高額紙幣は偽札ではないかチェックを受けるなど小額紙幣と異なる扱いを受けることもある。ビットコインはビットコインネットワーク上では代替性が保証されている。つまり、ビットコインネットワーク上で送金されたビットコインは全て同じであるとみなされる。しかし、ビットコインはその取引履歴がブロックチェーン上で追跡可能なため、違法取引に使われたことがあるビットコインが汚れたビットコインとして取引所や店舗から受け取り拒否される可能性もある。ビットコインが金と同等の代替性を持つには、プロトコルレベルでの匿名性とプライバシーの改善が必要だ。

検証性

大抵の場合、法定通貨が本物かどうかは簡単に判定できる。しかし、紙幣には偽造防止策が幾重にも施されているにもかかわらず、政府と国民が騙されるリスクはゼロではない。金もまた偽造問題を抱えており、金めっきされたタングステンで投資家を騙す詐欺が報告されている。一方、ビットコインの真正は数学的確実性を持って検証できる。また、ビットコインの所有権は公開鍵暗号の秘密鍵の署名で証明可能だ。

可分性

1ビットコインは1億サトシという小単位に分割できるため、極めて少額の決済にも利用可能だ(ただし、取引手数料がかかるため少額決済には向かない)。法定通貨も5円、1円といった何も買えないくらい少額に分割できるので可分性は高い。金は物理的に分割可能なものの、日常の少額決済に使用可能なほど少量に分割することは難しく、可分性は劣る。

希少性

ビットコインを金、法定通貨と明確に差別化する特徴がこれだ。ビットコインは供給上限が2100万に設定されており、2100万枚発行後は供給が完全停止するよう設計されている。このため、10ビットコインを保有する人は、同量のビットコインを保有する人が地球上に210万人(世界人口の0.03%)以下しかいないことを知っている。金は歴史を通して極めて希少とされてきたものの、供給拡大が不可能なわけではない。新しい採掘技術が低コストで利用できるようになれば、(例えば、海底惑星で採掘が始まり)金の供給量が急増する可能性もある。法定通貨の歴史は金に比べるとずっと短いが、供給が継続的増加傾向にあることはすでに実証されている。政府は目の前にある問題を解決するために通貨供給を増やす癖がある。通貨膨張癖は世界中の政府に共通するため、法定通貨保有者である国民の貯蓄は時間の経過とともに目減りする運命から逃れられない。

実績

貨幣財としての歴史は金が圧倒的に長く、文明社会の始まりにまで遡る。ローマ時代に鋳造された金貨は現在でもほとんど価値を失っていない。法定通貨はまだ歴史が浅く、貨幣財としては特異である。ただ、その短い歴史からも、世界中の法定通貨は最終的に無価値になると予測できる。国民が課税されている実感を持ちにくい狡猾な徴税手段として通貨膨張を利用する誘惑に打ち勝った国家は歴史上ほぼ皆無だからだ。法定通貨が国際貨幣秩序を支配した20世紀から私たちが学ぶべき経済的教訓は、法定通貨は価値を長期的、いや中期的にすら保持できないことだ。ビットコインは法定通貨よりさらに歴史は浅いが、(市場テストを迂回し法令という強制力で通用する)法定通貨とは異なり、市場テストを無事通過しており、価値貯蔵手段として中長期的に機能する確率は高い。さらに、リンディ効果が示すように、ビットコインが社会に存在する期間が長くなるにつれて、人々はビットコインが今後も存続するという確信を深める。新しい貨幣財に対する社会的信用は下図のように漸近的に高まっていく。

縦軸:社会的信用、横軸:時間

もしビットコインが20年間存続できれば、永久に存続すると考える人が大半を占めるようになるだろう。今、現代社会の重要インフラとしてインターネットが永久に存続すると考える人が大半なように。

検閲耐性

ビットコイン初期の主な用途の一つは違法ドラッグの購入であった。ビットコイン取引は一見、匿名性が高いため、犯罪を助長すると多くの人が誤解した。しかし、実際にはビットコインの匿名性は高くはない。ビットコインネットワーク上で行われた取引は全てブロックチェーンに刻まれ、全世界に公開される。取引記録を過去に遡って分析すれば、資金の出所を突き止めることも可能だ。有名なマウントゴックス攻撃の犯人逮捕もこのような分析のおかげである。注意深く入念な手順を踏むことで匿名性を高めることはできるが、ビットコインが違法ドラッグ取引で多用された理由は匿名性ではない。ビットコインが違法取引で重宝されるのは「誰の許可も必要としない」からだ。ビットコインは送金されてから受取人に届くまでの間、人的介入が一切ない。つまり、送金を許可または差し止める権限を持つ者が存在しないのだ。P2P分散ネットワークであるビットコインには検閲耐性がある。この対極にあるのが現代法定通貨時代の銀行や金融取引仲介業者である。政府規制に縛られ、犯罪(に関連する疑いのある)資金の報告、差し止めが義務付けられている。資金移動制限措置の典型例が資本規制だ。資本規制採用国に住む資産家は抑圧的政府から逃れたくても、資産を新たな居住地に移動することが極めて困難である。金は国家に依存しないものの、現物の長距離輸送はリスクもコストも高い。金はビットコインよりも国家規制の影響を受けやすい。インドの金規制法はその一例である。

以上、優れた価値貯蔵手段の要件と、それに対するビットコイン、金、法定通貨の評価だ。ビットコインは大半の要件で金、法定通貨よりも優れている。古代からの貨幣財と現代の貨幣財、両者に勝っているのだ。この事実はビットコインの普及を大きく後押しするだろう。特に絶対希少性と検閲耐性を併せ持つことは富裕層にとって大きな魅力であり、資産の一部を新しい資産クラスに配分する動きの原動力となっている。

第3部(全4部)に続く

第3部では貨幣の進化、貨幣財が価値貯蔵手段から交換手段に転換する過程、本格的な国際貨幣となるべく成長を続けるビットコインの現状を解説する。

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Teruko Neriki

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